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座談会「作家の条件」より

 かなり前になってしまうけど、05年10月18・19日に読売新聞で、町田康氏、山田詠美氏、桐野夏生氏の座談会が掲載されてました。その中から翻訳にかかわる部分を抜粋。


 ――国内だけではなくて海外にもどんどん翻訳される時代になってきた。昨年は桐野さんがエドガー賞候補に押されました。
 桐野 実際にアメリカへ行ってみると、日本の文芸のレベルはものすごく高いというのが実感。出版点数も日本は断然多いし、年間20%近くは海外の文学を紹介している。アメリカでは、95%が自国のもの。日本の作品が海外に出ていくということになったら、かなり文学の地図は変わるんじゃないか。ただ、海外への浸透は、時間のかかる仕事。翻訳の問題も大きい。
 山田 意訳ができる翻訳者は少ない。川端とか三島でなく、桐野さんや宮部みゆきさんのようにミステリーが翻訳されたのは画期的。私も以前、ニューヨークを舞台にした『トラッシュ』がアメリカで出たが、何で日本人がアメリカ人を主人公に描くのかと言われた。グローバルなものか、エキゾチックなジャパネスクなものか、両極端なものを欲しがる。
 町田 『けものがれ、俺らの猿と』と『きれぎれ』がフランス語に訳されたが、特に初期は語り口だけで書いているところがあり、方言も多く、翻訳は難しいと感じた。翻訳したいという外国人から「ごっついおもろい小説になると思いまんねん」といった手紙をもらうと、根本的に誤解されているのではと不安になる。日本語だと、一見ふざけたような小説に見えても、それだけではないところまで読み取ってももらえるが。


 ――意外に本を読んでいない新人が新人賞をとって驚くことがある。
 山田 読まなきゃ駄目。20歳になっていきなり野球選手やバレリーナになろうと思っても無理。字はトレーニングいらないと思いがちだが、書いている人は、昔から本が好きで、無意識のうちに必ずトレーニングされてきているはず。それに、自分がこれは新しいと思って書いても、もう大文豪に書かれているものだと知らなかったら、恥を知らないということ。先達にやられているという謙虚な気持ちを持ってほしい。
 町田 新人賞の候補作を読んでいると、テレビで話すような言葉が入っていることがある。テレビ番組でタレントが言っているような言葉遣いを、狙ったわけでなく自然に地の文で使っている。小説の言葉は、自分の話す文章とも、新聞とも違う。日常的な言葉とは全然違うOS(オペレーティングシステム)みたいなものがあり、それの上での応用。書いていいとも悪いとも思わないのは、本を読んでないからかもしれない。引っ掛かり、立ち止まりしながらでないと、小説の文章というのは書けないと思う。こうなったのは僕のせいかなあ、とも思いますが。
 山田 町田君の影響は、確かに「文学界」の新人賞の選考をやっているとある。確信犯で意図されたたくらみのある方言の使い方と、ただ方言で書いた小説は全然違うものなのに、分かっていない。私が書き始めたころには、英語を文中に埋め込めばカッコいいと誤解した人がいた。私、英語は使うけど、外来語は一個も使わない。ひどい勘違い。
 桐野 書き言葉に対する尊敬の念がなくなっていると思う。日常の言葉とも、テレビや漫画とも全く違うことが理解されてない。それは大量の本を読まないと分からない。


 とまあ、他にも興味深い部分はあるのですが、このあたりで。最初の翻訳出版のとこだけど、アメリカと比べたらそうなるんだろうなあ。例えばドイツでは
・2002年-全体の10冊に1冊が翻訳書。フィクションのほぼ2冊に1冊
     (ゲーテ・インスティトゥート/ドイツ語文学より)
・2003年-全体の1/8が翻訳書。小説の31%
     (東京国際ブックフェア/ドイツパビリオンより)
となってます。「フィクション」「小説」ってのは同じことだろうね。割合にかなりの差があるが、本屋で見て「訳書が多いな」という印象は実際受けた。日本とちがって表紙に訳者名書いてないし、あいにく名前だけでわからないこともあるしで、ドイツ語の本を物色しようとするといちいち中を確認しなくちゃだったものなあ。

 06年3月27日には社説で「文学の輸出」というのも掲載されてた。こちらは村上春樹氏がフランツ・カフカ賞に決まったことにちなんで、文化庁の翻訳出版助成事業などを紹介している。一部抜粋。
「今日では、個々の作家の才能を評価して、作品に魅力を感じるから読みたいという傾向が強いのではないか」
「(…)4か国語ごとに『読みたい作品』を調べると、国によって出版を望む分野が異なっていた」
「文学の翻訳は、単に言葉を他の言語に置き換える作業ではない。日本の文化や生活に精通した、優れた翻訳者を養成するためにも出版の機会を増やしたい」
「息長い積み重ねが、日本文学の普及を広げ、日本への理解も深める」

 国によって作品の好みがちがうというのは面白い。フランスだと「太宰」が人気と聞くな。去年辺り、フランスの監督が太宰に関するドキュメンタリー映画作ってたんじゃなかったっけ? 中原中也なんかも訳されてるって友達が言ってた。上の町田氏というのも特徴を感じる。
 座談会抜粋の後半は、講座の課題や下訳のとき、どのくらいなら書き言葉としていけるのかなあと考えてたことだったから。

 で、これを書いてるうちにどんなものが訳されてるのか気になったので、ドイツのアマゾンで日本のものを検索してみた。こちら(小説まんが)。日本以外のもまざっちゃってるようだが。あ、ついでに日本のアマゾンでドイツ語関連のページを。どんなドイツ語文学が訳されてるかも見られます。

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コメント

>フランスだと「太宰」が人気と聞くな。

へぇぇぇ。
なんか意外な感じがしました。

文学の専門的な分析の仕方とかは解からないけれど、
私は純粋に、太宰の小説の内容はもちろん、
1文がすごく長くて、畳み掛けるように「、」でもって単語を次々に羅列する、とか
改まった文章の中にいきなり口語のような文が挿入されてたりとか、
そういう茶目っ気とかがすごく好きなんだけど、
太宰の得意な、「女」主人公の独白形式の文とかも含めて、
そういうおもしろさって翻訳しても伝わるのかな?
ドイツ語にも、「女性文」「男性文」ってあるの?

人気といっても局地的なものだと思うんだけどね。
それにしても、答えにくい質問を…。
まずひとつめの「?」。伝えたいと思って訳すものだと思うが、伝わるかどうかは…うーん、訳す人にもよるだろうし。例えば、読みやすいように文をわけたり変えたりすることもある、訳者によって語彙や解釈がちがうこともある、文化や習慣のちがいもある。正直、訳してるときに、意味は合ってるはず、でもこれでいいんだろうか、と思うことはあるよ。
ただ、翻訳って精読で、一行一行やってくしかないものというのを考えれば、伝わるものもあるだろう。
いや、これね、答えにくいよ。「自分の作品は翻訳できない」って言ってる作家もいるしね。次のもねー、いろいろ並べようとすれば並べられるけど、もうこっちは短くいくよー。日本語で見る文の性差、一人称や語尾って面で言えば、「ない」だろうなあ。このあたりはドイツ人の(は)くんと話したことある。太宰に関しては、ドイツアマゾンで見たら独訳出てたから、自分の目で確認してみるのも面白いんじゃない? でも、くまっこ、忙しいもんねえ。あ、レビューのとこでねえ、太宰の自殺、切腹って書いてる人いたよ。たぶん三島と混同してる…?

おお!
なんかめんどくさい質問を投げかけてスマンよ。
丁寧な回答ありがとう。
翻訳って深いんねー。常に「これでいいの?」っていう問いかけと共に進んで、終わりがないのは、きっと音楽と同じだねー。地道な作業組、共に少しでも良いものできるように頑張るかぁー。
日本語の語尾とか、言葉遊びって独特よねー。そして、誇るべきことよねー。
それにしても、太宰が切腹なんてー!けしからん!苦笑

そうねー。なんかやればやるほど「わかんない」とか、「自分ってまだまだ」って気になってくるよ。勉強始める前が一番自信あった!笑 若かったゆえ?
おう、地道~に、少しでも良いものできるように続けていきましょうー。

日本語いいよねー。母語でよかった。そういえばさー、前にふたりで夜中、童謡歌ってたことあったよね…。

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