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読んで楽しい日本語

 とにかくまずはこちらを読んでいただきたいです。

「(略)そいつが、ヤミ屋の頭株らしいのをつかまえて、何かいいがかりをつけたからスワ大変、いまにも大乱闘、大活劇が起こるかと手に汗握り、肝をひやして、喜んでみていると、あにはからんやです。そいつがね、ヤミ屋の親分に何やらクシャクシャといったと思ったら、俄然、形勢一変でさあ。いままで殺気立っていたヤミ屋の一団が、青菜に塩というていたらくで、いっぺんに静シュクにあいなった。いや、静シュクにあいなったのみならず、その男に向かって平身低頭、キッキュージョとしてレイジョーを極めた。いや、ぼくは学問があるから、とかく、むつかしい言葉を使っていかんのですが、あまり漢語を使うと、漢字制限のおりから、ぼくの記録係りが困りますから、このくらいにしておいて、(略)」

 以上の文は、横溝正史著「黒猫亭事件」(「本陣殺人事件」収録)からのものです。
 どうですか? 登場人物のこんなせりふ。くらくらきません? このシーンを読んだときは、もうもっのすごくわくわくしましたねえ。くあーって。こんな遊びができる日本語が母国語でよかったーって。
 ちょっと説明しておきますと、これは金田一耕助がかつての級友風間俊六との再会を語っているところです。キッキュージョのくだりはもちろん、どこをとっても面白いと思うのですが、細かな設定がまたきいてまして、最後に出てくる「記録係り」、これ、横溝正史氏のことなんですよね。金田一シリーズには、金田一の活動を小説にしているYという作家が度々登場して、二人で酒を飲んでたりするのです。こういうのも読者としては楽しい仕掛け。

 もともとあの雰囲気が好きで映像化されたものを見てて、でも本にまで手を出す気はなかったのですが、何かのおりに読んだら、文章と金田一耕助という人にすっかり引き込まれてしまいました。
 本の最後についてる解説を読むと、当時は翻訳物が少なかったので海外ミステリーの原作も読んでいたと書いてあり、こういうところにも感銘を受けました。横溝氏が翻訳したものもあるそうで、原作と並べて読んでみたいですが、今は両方とも手に入りにくいようです。
 「読んで楽しい日本語」や「この人の文章好きだなあ」は他にもあるのですが、金田一物は読んでも楽しいんだぞう、ということで。

金田一もしくは横溝補足情報
・すごい情報量のサイトです 横溝正史エンサイクロペディア
・本屋の絶版本コーナーで「壺中美人」「芙蓉屋敷の秘密」発見、購入。やった…!
・武田真治氏が金田一演じたら似合いそうじゃないですか? みてみたいなあ。

追記
 「横溝正史エンサイクロペディア」へリンクの報告をした際、管理人 Jiichi さんに角川横溝文庫なら電子出版でほとんど読めるという情報をいただきました。ありがとうございます。

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